
バイクのエンジンオイルの交換時期について
2018年10月6日
著者: 矢内 洋三
前回はエンジンオイル交換作業の重要性について述べたが、今回はオイルの交換時期について考えを述べてみる。
一昔の説明書には、エンジンオイルの交換時期は、1年毎もしくは走行距離1万キロ毎、とか書かれていた。
あれはメーカーの開発者の話を聞くに、「ある団体」からのお達しだったそうな。
最近の説明書には、半年毎もしくは走行距離3,000キロ(車種によっては5,000キロ)となっている。
しかし、仮に同じバイク(車種)であっても、メーカー指定距離で交換していては短寿命になる場合も多い。
理由としては、「バイクの使用状況が、ライダー毎に違う」、これに尽きる。
エンジンオイルの規格とグレード
もちろん、エンジンオイルのグレード(MAなのかMBなのか)によっての影響も大きい。
エンジンオイルは、公益社団法人自動車技術会が制定する日本自動車技術規格がある。
英語ではJapanese Automotive Standards Organizationと表記し、頭文字を取ってJASOと表記される。
バイクのエンジンオイルについては、JASO T 903として規格化されている。
試験方法 | 評価試験項目 | 性能分類 | |||
---|---|---|---|---|---|
指数基準 | |||||
MA | MA2 | MA1 | MB | ||
JASO T 903: 2011 | 動摩擦特性指数 DFI | 1.30以上2.50未満 | 1.85以上2.50未満 | 1.30以上1.85未満 | 0.50以上1.30未満 |
静摩擦特性指数 SFI | 1.25以上2.50未満 | 1.70以上2.50未満 | 1.25以上1.70未満 | 0.50以上1.25未満 | |
制動時間指数 STI | 1.45以上2.50未満 | 1.85以上2.50未満 | 1.45以上1.85未満 | 0.50以上1.45未満 |
「高級なエンジンオイルだから長寿命、長い距離でも大丈夫!」とか、「安いエンジンオイルでも短いスパンで交換すれば大丈夫!」いうのは正しくはない。
自分のバイクのコンディションを良好に維持するために、自分のバイクに合ったエンジンオイルとオイル交換時期を知らなければならない。
エンジンオイル交換時期の目安
当店でのエンジンオイルの交換時期は、以下の目安でお客様にお伝えしている。
エンジンの排気量 | 走行距離 |
---|---|
50cc | 2,000Km |
125cc | 2,000Km(エンジンオイル量が800ml以下) |
125cc | 3,000Km(エンジンオイル量が1L以下) |
125cc以上 | 3,000Km(車種によっては5,000Km) |
この目安は、あくまでも、一般的な走行状態を想定している。
以下のようなバイクについては、もっと短いスパンでのエンジンオイル交換を勧めている。
- 大型の空冷エンジン
- ポンピングロスを減らす為にブリーザー容量が多いエンジン
- オイル消費量が多い車種
エンジンオイルの交換時の確認事項
エンジンオイル交換作業時に、以下のような項目を中心に観察して確認し、判断する事が多い。
- エアクリーナーボックス下部にあるドレンキャップにどれだけオイルが溜まっているか?
- オイルの変色や水の混入状態
- 抜けたオイル量がどれだけ減っているか?
同じ排気量、気筒数、形式(DOHCやSOHC、2バルブや4バルブ、ロッカーアーム式や直打式)であっても型式が違えば、エンジンオイルの交換時期は当然違ってくる。
分かりやすい例として、2018年8月23日に発売されたオフロードバイクであるホンダ「CRF450L」を挙げよう。
オフロードバイクの「CRF450L」のベースとなっているモトクロス競技専用車「CRF450R」は、走行時間でオイル交換時期を判断する。
「CRF450L」のエンジンオイルの交換時期の目安は、メーカーは4ヶ月もしくは走行距離1,000Kmとしている。
この数値を見るだけで、ホンダが「CRF450L」のオイルマネージメントにどれだけ工夫を凝らしたか想像できる。
通常、モトクロス競技専用車は、1回の走行でエンジンオイルを交換する。
もしくは、走行距離200Kmぐらいを目安に交換する。
それを、オフロード用に同じエンジンをベースに、走行距離1,000Kmまで伸ばしたのだ。
しかし、実際にある程度の距離や期間を走ったCRF450Lが持ち込まれて、そのエンジンオイルの状態を確認しないと、このメーカー推奨がそのライダーにとって妥当かどうかは判断できない。
オイル交換時期を早める要因
オイルの交換時期を早めてしまう要因の一部を以下に書き出した。
これらは、ほんの一部でしかない。
- 短い距離(一週間での走行距離が15キロ以内)での移動
- 坂の多い場所での移動
- 一回の走行距離が長い(200キロ以上)
- 暖機をしない
- 冷却水の交換をしたことがない
- 過走行車
- 小排気量車でバイパスなどの利用率が高い
- コース走行
- 使用頻度が低い(月に数回しか乗らない)
- 添加剤を入れている
- エンジンに対してオイル粘度が低い
オイル交換時期はオイルの汚れだけで決まるわけではない。
オイル窓から見て、「オイルがそこそこ走っているのに汚れていない、だから劣化していない」と云う人がいるが、それは大きな間違いだ。
エンジンオイルの交換時期を決めるのはマシンの状態
上述したように、単に、期間や走行距離では、エンジンオイルの交換時期の目安にはできない。
世の中に出回っている、期間や走行距離での目安は、本当に目安でしかない。
当店では、次のエンジンオイルの交換時期の目安を分かりやすく、走行距離で表してシールをお客様のマシンに貼る。
しかし、その距離は、プロのメカニックとして、一度、マシンを検査をした上で見積もった距離である。
次回はオイルの仕事、作用について書きたいと思う。